前頭側頭型認知症は高齢者だけでなく若年層にも起こる

皆さんに知ってほしい。認知症は高齢者だけでなく、働き盛りの若年層~中高年にも起こります。特に64歳以前に発症した認知症のことは「若年性認知症」と呼ばれます。

認知症にはいくつかの種類があります。発症の要因によって、大きく4種類に分けられます。

  • アルツハイマー型認知症
  • 脳血管性認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症の一種)

ここでは主に、義母が発症した【前頭側頭型認知症】について書いていきます。

ウチの義母は70代での発症ですが、この病気の患者さんは65歳以下の若い世代に多いことを知りました。この記事は、義母の主治医からの説明と頂いた資料、義母の実際の症状、居住地の役所の各種窓口情報を参考に作成しました。

医療証書類のイメージ 

医療証書類のイメージ 写真AC

難病に指定された認知症

【前頭側頭葉変性症】のいくつかの症状は、2015年(H27)7月に難病指定されました。

  • 前頭側頭型認知症(行動異常型)
  • 意味性認知症

対象は上記2種。発症年齢が65歳以下で一定の条件に該当する場合に申請できます。認定されれば医療費の助成が受けられます。病気の詳しい情報は「難病情報センター」前頭側頭葉変性症(指定難病127)で解説されています。(注:申請は各都道府県の担当窓口へ)

難病情報センター

TOPページ中段のリンクから各種情報が閲覧できます。「医療費助成制度」「難病指定医療機関」「都道府県・指定都市関係機関(担当窓口)」など。

40~60代くらいの働き盛り世代で発症すると、仕事=収入に影響が出る可能性があります。気掛かりなことがある方は、早めに医療機関を受診して下さい。

ウチの義母のように、66歳以降の高齢での発症の場合は難病の対象にはなりません。高齢での発症数が少ないことが大きな理由のようです。

前頭側頭葉変性症とは

前頭側頭葉変性症(FTLD)は、脳の前頭葉や側頭葉に萎縮が起こる病気です。脳の神経細胞に異常なタンパク質が溜まることで発症しますが、その原因は不明とのこと。症状により3種類に分けられます。

  • 前頭側頭型認知症(FTD)
  • 意味性認知症(SD)
  • 進行性非流暢性失語症(PNFA)

主な症状は「行動障害」「人格変化」「言語障害」など。発症後はゆっくりと進行し、認知機能や運動機能などにも衰えが生じます。

前頭側頭葉変性症

発症年齢は65歳以下の若い方に多く、66歳以上の高齢での発症は少ないです。

前頭側頭型認知症(2015年に難病指定)

前頭側頭型認知症は、前頭側頭葉変性症のなかでも「行動障害」「人格変化」という症状が目立ちます。併せて「実行(遂行)機能」が衰えると、仕事や料理のような日常作業が困難になります。

記憶は保たれていることが多いため、認知症と気づかれにくく「性格が変わった」という印象を持たれることがあります。

この病気は、以前は「ピック病」と呼ばれていたそうです。現在では、脳の神経細胞内に「ピック球」と呼ばれるものが存在する場合のみ「ピック病」と呼ぶそうです。

前頭側頭型認知症の主な症状

以下に主な症状を挙げてみます。一度に全部出るわけではありませんが、ウチの義母のように幾つか複合して出ることもあります。

社会性の低下
  • 自分本位。状況に不適切な行動、真剣な場面での悪ふざけ等、周囲への配慮が無くなる。
  • マナーやルールの概念が無くなり、失礼な振る舞いや反社会的な行動をとることがある。
脱抑制
  • 抑制が利かなくなる。制止しても行動を続ける。店内などで大声を出す。
  • 興奮、激昂、暴言、暴力がある。些細な事で激しく怒る、悪態をつく。
  • 失敗や間違いをしても悪気無く繰り返す。勝手に立ち去ろうとする。
常同行動
  • 同じ言葉や行動を繰り返す。同じ物ばかり飲食したがる、買いたがる。
  • 特定の物や行動や場所に固執する「こだわり行動」がある。
  • 「こだわり行動」を制止すると怒る。時間がずれると怒る。
  • 散歩や食事など、決まった時間に特定の行動をしたがる。(時刻表的行動)
自他に無関心・意欲の低下
  • 自分の体調や身だしなみに無頓着になる。
  • 片付けや料理などが出来なくなる。
  • 出掛けるのを嫌がり引きこもりがちになる。
  • 働く意思があっても手順を思い出せない、仕事への意欲がなくなる場合がある。
刺激に反応しやすい
  • 見聞きしたことに対して制御ができず即反応する。
  • 目に映った看板の文字を一々読み上げるなどの反射的な言動をする。
  • オウム返し、人まねをする。
記憶や場所の認識は保持
  • 日時や出来事の記憶は保たれている。長谷川式認知症テストは高得点。
  • 決まったコースの散歩ができ、道にも迷わない。(進行するとできなくなる)

意味性認知症(2015年に難病指定)

意味性認知症は、前頭側頭葉変性症のなかでも「呼称能力の障害」「語義失語」が現れる病気です。物の呼び名が分からくなったり、単語の意味が分からなくなる、といった症状が出ます。

例えば、動作として鍋を使うことが出来ているのに、「鍋という呼び名」が分からない。「鍋で何ができるか」を説明できない。様々な場面で仕事や日常作業に支障がでてしまいます。

進行性非流暢性失語症

進行性非流暢性失語症は、前頭側頭葉変性症のなかでも「発語失行」「失文法」の症状が現れる病気です。物の名前や言葉の意味は分かっているのに、言葉を発声するのが難しくなります。また、単語が出て来ず文章としてスムーズに話せなくなることもあります。

前頭側頭葉変性症を発症したら

ご自身、あるいは家族や仕事仲間の異変に気付いたら、まずは内科などの「かかりつけ医」へ。会社員であれば産業医など、身近な医師に相談を。専門医を紹介してもらってCTやMRIなどの精密検査をされることをお勧めします。

この病気には根本的な治療法がないため、周辺症状に作用する薬を長期的に調整し続けていくことになります。そのため医療費が嵩み、家族の介護の負担も大きくなります。

なによりも本人の生きる質を保つために、早めに診断を受けて医療費支援や適切な介護サービスを利用して下さい。大規模な病院ならソーシャルワーカーに相談することもできると思います。

若くして発症した場合

65歳以下なら【難病指定医で画像等の精密検査】を行い、正確な診断を受けて下さい。

就業中なら、遂行可能な仕事を続けられるよう職場に伝え、仕事=収入の確保を。本人の生きる意欲を維持するためにも大切です。

療養に入る場合は、状況に合った公的支援の申請をして下さい。40歳以上であれば介護保険が使えます。要介護認定を受け、適切な介護サービスを受けて下さい。

公的支援

以下に利用できそうな公的支援を書き出してみました。すべてが利用できるとは限りませんが、本人の状況に該当するものがあれば、出来るだけ申請して下さい。

前頭側頭型認知症(行動異常型)、意味性認知症と診断されたとき

お住まいの都道府県の窓口で【難病医療費助成制度】を利用する。

  1. 近くの難病指定医を受診し、診断書を交付してもらう
  2. 必要書類を揃え、都道府県または指定都市の窓口に申請→審査
  3. 認定されると、医療費受給者証が交付される

各都道府県のサイトに、難病医療費助成制度の申請方法の解説ページがあります。また、「難病情報センター」サイトの「医療費助成制度」のページでも解説されています。

就業中、退職時に出来る手続き
  • 傷病手当金(健康保険組合、協会けんぽ)
  • 休職証明を提出(社会保険組合)
  • 雇用保険の失業給付を申請(ハローワーク)
住宅ローン免除(団信加入の場合)

利用中のローン会社にお問合わせを。※ローン支払いが困難になった場合、国民年金保険料の免除制度があります。

市区町村で申請できること

自治体によって違いがあるかと思いますので、お住まいの市区町村でご確認を。

  • 介護保険制度・要介護認定を受ける(40歳以上で利用可)(介護保険課)
  • 高額介護サービス費(介護保険課)
  • 医療費控除(医療保険課)※年間で一定額以上を超えたら医療費控除の対象
  • 高額療養費(医療保険課)
  • 高額医療、高額介護合算療養費(介護保険課、国民健康保険課)
  • 年金保険料の免除(国民年金担当課)
  • 障害者総合支援法の自立支援給付、地域生活支援事業(障害福祉課)
  • 精神障害者保健福祉手帳(障害福祉課)
  • 特別障害者手当(障害福祉課)
障害年金の申請

障害年金を受けるためには、年金の納付状況、初診日や障害認定基準などの条件を満たしていることが必要です。お住まいの地域の年金事務所へお問い合わせを。

日本年金機構(障害年金)

成年後見制度

本人の判断力が難しい状況の時。各地の公証役場にお問い合わせを。

※ 利用する前によく調べてほしい

専門職から決められた「法定後見人」、または、本人が意志ある時に契約した「任意後見人」。どちらであっても、後見が開始されると、本人や家族は、家裁の許可なく本人の財産の管理をすることが出来なくなります。

また、法定後見人には月々数万円の報酬を支払います。本人の財産を保全する為の費用にあたりますが、認識の違いでトラブルになる事も。不正事件も発生しているため、検討は慎重に。

民間の保険

個人で健康な時に加入していた共済、生命保険、医療保険がある場合は、保険金が請求できるかご確認を。状況次第では「高度障害特約」に該当する場合があります。

高齢で発症した場合

66歳以上で発症した場合は、難病指定には該当しません。

基本的には、居住する地域の「かかりつけ医、専門医」を受診し、自治体や民間の「介護サービス」を使います。掛かる費用に充てられるのは本人の年金が主体になります。

利用できる医療費支援は、前項の【若くして発症した場合】の「公的支援」「民間の保険」を参考にして下さい。個々の状況により利用できる支援には違いがあります。そのためにも早めの診断が大切です。

医療機関で診断を受ける

かかりつけ医~専門医で「MRIやCT等の精密検査」を受けます。本人の意思や生活の質を保つことを念頭に、判明した病状に合う対応を検討します。

要介護認定を受けて、介護サービスを利用する

症状が深刻化しないうちに、早めに市区町村の介護保険課で要介護認定を申請して下さい。

記憶が保たれていたり、スムーズに会話ができると、見かけ上「自立」と誤認される可能性があります。訪問調査時に【画像等の精密検査結果のコピー】や【家族が記録した本人の普段の様子】を提出すると、認定調査会での正確な判断材料になります。

要介護認定前の準備・記録と健診とMRI・義母の気持ちが切ない
前頭側頭型認知症の可能性を指摘された義母。何か手立てが必要と確信してから要介護認定まで、半年かかりました。出来事を時系列で記録、本人の状態に合わせて進めていった実例として参考になれば幸いです。

前頭側頭型認知症の患者さんには行動異常があります。介護の当事者として言えることは「家族だけでの介護は無理」です。家族が先に倒れては元も子もありません。困りごとや症状に応じて「介護サービス」を利用しましょう。

日々のケアを模索

認知症を発症した人にも意思があります。しかし本人には病識が無い事が多いです。本人も気付いていることもありますが、気付かれまいと葛藤し抵抗することも。周囲も混乱し疲弊します。

病気のことを知り、本人の気持ちと状態を知り、世話をする身近な人が倒れないよう、日々のケアを模索していくことになります。

前頭側頭型認知症・患者と家族の症状・薬と相談と記録は大切
前頭側頭型認知症は行動に異変が起こることが特徴です。一つの症状が出ることもあれば幾つか複合して出ることも。義母の症状と家族の症状、薬と相談と記録について書いています。

患者会や家族会の利用を検討

前頭側頭型認知症だけでなく他の認知症や疾患でも、家族だけでの介護は厳しいものがあります。時には経験者のアドバイスを仰いだり、胸の内を受け止めあうグループを利用するのも大切です。

各地の地域包括支援センターでも家族会の情報を把握していると思います。自分たちの状況に合いそうなグループを見つけて情報収集することも検討してみて下さい。

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