前頭側頭型認知症・患者と家族の症状・薬と相談と記録は大切

前頭側頭型認知症は行動に異変が起こることが特徴です。一つの症状が出ることもあれば、幾つか複合して出ることもあります。記憶は保たれている場合があり「性格が変わった」と思われることもあります。

前頭側頭型認知症 (※ 症状の出方や対応方法は、個々のケースで異なります。)

以下にウチの義母(70代半ば)の主な症状と対応を書いてみました。診断がついてから約半年の状況です。「高齢で発症した人の1例」として参考になればと思います。

義母に出た症状

義母の場合「常同行動」と「脱抑制」が多いです。タガが外れたように抑制が効かなくなり、欲求を通そうとします。深刻だったのは「興奮」「攻撃性」「暴言」。これは本当に辛い。

更に「妄想/認識の歪み」、“料理が出来ない”「失行」も。料理が出来ないのは、おそらく“計量”ができなくなったから。同居開始時には、既に調味料などの液体や粉末が量れなくなっていました。

見た目は普通の高齢者。今のところ身綺麗にできています。スーパーでの買物程度の計算ならできるし、記憶も良好。そして会話が流暢なため、家族以外の方には理解してもらうのは難しいです。

時計的な常同行動

義母の常同行動は「食事」・「掃除」・「午睡」。時間通りの開始を好みます。遅れると不機嫌に。現在のルーティンはこんな感じ(デイサービスの無い日の場合)。

  • 食事:朝食7時半(自分でトーストを焼く)・昼食12時・夕食18時。
  • 洗濯物を干す:朝食後、概ね8時。
  • 掃除:モップ掛けで、8時半・16時。
  • 庭の手入れ:10時頃に、30分程度。
  • 午睡:14時頃から1時間ほど。

空いた時間は本人の好きなように過ごしてもらっています。今のところ簡単な約束はできるので、「何か迷ったら聞いて下さいね」とか「散歩は出掛ける前に声かけて下さいね」と伝えています。

散歩も好きですが「気候の良い日に行こうね」と、やんわりと調整しています。安全のために、義母と私のスマホに「GPSアプリ」を入れています。義母には「場所が分からなくなったときに便利。見つけてあげられるよ。」と伝えてあります。

常同行動は “ある程度” ルーティン化できる

以前は他にも「こだわり行動」がありました。こだわり行動を始めると延々と続けるため、本人は過労に気付けず脱水状態になりがち。しかも素手での作業を好むため、手指に頻繁にケガをする。

なんとか穏やかな過ごし方は出来ないかと医師に相談。私も時間を合わせ、安全な常同行動を固定化することにしました。危険なものは代替案などでやめさせ、3カ月くらい掛けて、ルーティン化に少しずつ誘導していきました。

そして最も安全なルーティンは【デイサービス】。デイサービスを常同行動のひとつとして馴染んでもらえたら、本人の行動も気持ちも安定します。

デイサービス利用には薬の準備も必要

前頭側頭型認知症だと、施設側から利用を断られることもあります。義母も1件目は断られてしまいました。理由は「興奮に対応する薬の準備ができていなかった」ことです。

患者本人の症状に応じた薬の準備をしておけば、施設も対応できます。現在、義母が通う施設のスタッフの皆さんには本当に良くして頂いています。

追記(投稿から2か月後)不穏な散歩

どうやら散歩の時間を、義母自身で決めたようです。在宅している日の「13時に出掛け、14時に帰宅する。行先は〇〇」。こう宣言して出掛けるようになりました。GPS履歴で確認するとルートは宣言通りで安定。ここまでは、いいのです。

先日、不穏なことが。雨は小降りになったけど強風が続いていた午後、「〇〇に行く。14時に帰る。」と玄関から義母の声。私が「雨が残ってるし風も強いから、散歩は今度にしましょう。」と言うのも聞かず「大丈夫1人で行けるから!」と振り切って出掛けてしまいました。

確かに雨は止む予報だったけど、声掛けを振り切られるのは初めての事でした。義母は散歩に私が同行するのを嫌うので、この日はGPS履歴を見ながら待つことに。時間通りに帰宅したけど、傘の骨は強風で曲がっていた。ルート履歴も宣言と違う場所だった。私も一緒に行けばがよかったか…。

もしかして「時計的な常同行動」が、新たに1つ強固になってしまうのかも。他の患者様のケースで聞いたような、荒天でも何が何でも出掛けてしまう状態になるのだろうか…。

興奮と攻撃的な暴言

同居後すぐに気付いた興奮と攻撃性。恐らく同居前からあったのではと思います。ともあれ一緒に暮らしながら気に掛けていると、なんとなくパターンが分かってきました。

些細な「刺激」がきっかけで「妄想」し、「興奮」して「攻撃性」のある「暴言」が出る。特に食事の前は空腹のためか顕著。そのときの様子は、息づかいや声色が変わって険しい表情、時に怒鳴り、暴言を繰り出す感じ。もしも腕力のある人なら、暴力が出てしまうのかもしれません。

例えば、普段の食材の買物や宅配便の到着がきっかけで「妄想・妬み」→「興奮・暴言」

  • 「アンタが妬ましい!息子の金を使うばかりで腹立たしい!」…よくある普段の悪態。
  • 「こそこそ無駄づかいしよろうが?今すぐ通帳を見せろ!」…お見せした。残高適正。

文字に出来るのはこれくらい。他にも様々な着火点で、文字に出来ない暴言が炸裂。

来訪者に対して暴言が出た時は本当に申し訳なく悲しかった。私に対してなら何を言ってもいい。しかし第三者に対して実害が出てしまった。今後もこんなことが続くの?と絶望…。

興奮と攻撃性には薬を試みる・水分補給も大切

常同行動は徐々にルーティン化しつつも、興奮と攻撃性は尖る一方。このままではデイサービスを利用するのも難しい。困り果てて掛かりつけ医に相談すると、興奮を鎮める薬を勧められました。

(あくまでウチの義母のケースです。他の患者様は主治医に相談して判断願います。)

メマリー

最初に処方されたのは【メマリー】。先生からは「前頭側頭型認知症には薬はありません。この薬は他の認知症には広く使われていますが、前頭側頭型認知症に対する効果の裏付けはありません。メマリーを使うのは、興奮や攻撃性に対しての選択です。」とのこと。

まず5mgからスタート。1日1回朝食後に服用。10日程で興奮と怒鳴る暴言がほぼ沈静。淡々と悪態をつく程度に落ち着きました。体重が34kgと軽いため?少量でも効きが良かったのかも。その後2カ月かけて、10mg→15mg→20mgに。

認識の歪みはそのままでしたが、興奮や攻撃性に対しては一定の効果があったと言えます。しかし20mgで副作用の眩暈が出たので、10mgに戻したのち中止。

抑肝散

次に処方されたのが漢方薬の【抑肝散(よくかんさん)】。この薬も興奮や攻撃性を和らげるもので、副作用が少ないとのこと。義母は「薄いチョコみたいな味で飲みやすい(※個人の感想)」。開始から一週間は多少の興奮が出たものの、日毎に表情や態度に落ち着きが出てきました。

1包2.5g、1日3回食間に服用(義母は飲み忘れ防止で食後に服用)。ゆっくり、やんわり効くようです。飲み始めて1カ月半が経ち、興奮と怒鳴る暴言は鎮まりました。認識の歪みや妄想は相変らずですが、現状ではこれで十分です。

水分補給も重要

薬のほかに重要なこととして指摘されたのが「水分不足」。脱水状態になると意識に混乱が生じやすく、体の一部に痛みが出たり、興奮や攻撃性が増すことがあるそうです。

本人が飲みたがらなくても、こまめに水分補給するのは大切。義母専用に、保温/保冷ポットを用意し、白湯や粉末茶等をいつでも飲めるようにしました。

見守る家族に出た症状

義母の症状に日々晒される私にも、異変が現れました。「不可解行動も暴言も、病気が原因なのだから」と、気にせず受け流していましたが、ついに「身体が悲鳴をあげた」のです。

近所の内科に相談

「義母の頭の中」には休憩の言葉は無し。夏の暑い日でも、私が水を飲む事にさえ暴言が出て本当に困った。しばしば腕に痺れが出るような脱水状態に。それに眩暈や動悸。

近所の内科に駆け込み、表向きは私の持病の薬の処方、併せて義母についても相談。医師から「お義母様を診ることができればよいが。特定検診をきっかけにしてみては?」と有難い助言。

後日、特定健診を利用。義母の結果は様子見レベル。私の結果は血圧が150を越すなど散々。血圧計を買って毎日測るよう指導されました。

血圧は経過観察。それに動悸に不眠。義母の足音が聞こえるとビクッとする。病気が原因とはいえ、威圧されながら依存されるのはキツい。怒鳴り声がこれほど心身を蝕むものとは…。

保健所と各種相談窓口

義母についての新たな心配事もあり、今度は保健所の健康相談を利用しました。義母の日常の記録を持ち込み、対面で保健師さんに相談。現状でできる代替案など助言と併せて、保健師さんは私のメンタルを心配して下さった。

そこで今度は「家族の心の相談」を利用。無料で精神科医のカウンセリングが受けられる由。相談時間は30分と短めだったので、保健師さんに渡した記録を事前情報として予約。

精神科医から家族への助言

※ あくまでウチの状況に対して。

「お義母様は認知症の初期症状が出始めている可能性が高い。お義母様に家族の気持ちを伝えたい、と思うだろうけど、まず伝わらない。分かってほしいという期待はしない。事務的対応で良い。家族で意思を合わせて「命の危険からは守る」というので良い。誘導する場合は “本人にとっての手助け”で。包括センターと、かかりつけ医の手を借りて、要介護認定の準備を。」

具体的なストレス軽減方法については、以下のアドバイスを頂きました。

物理的、感情的な距離をとる
  • 義母と接する時は、刺激を避けるため、沈静な態度で。無理に笑わなくてよい。(※私の状況の場合)

「義母が自室にいる時/家で安全な1人行動ができるとき」→「家族は自室で私用/各自の家事/交代で外出」。デイサービスが決まるまでの間、こうして密着状態を回避。

誰かに相談する
  • 包括センター、かかりつけ医、カウンセラー、親族、友人等に、話を聞いてもらう。

気持ちが軽くなったり、違った視点の気づきを得られるかもしれない。新しい対策を得られる可能性もある。

記録する
  • 小さな変化に気付きやすい、冷静になれる、医師や介護士に状況を伝えやすくなる。

既に実行しているようだが、記録の続行は、無理のない程度に。

できる範囲で冷静に「記録」を

前頭側頭型認知症だけでなく、他の認知症や長期の療養に伴走する場合、可能であれば「事実の記録を残す」ことをお勧めします。

  • 日付(重要)
  • 事実(正確に、簡潔に)

1日に1~数行で十分。状況によっては、写真・動画・音声なども残す。紙のノートや、〇年日記などでも。今時らしく携帯端末のカレンダー機能やメモ機能など、使い勝手の良い方法で。

私の場合、最初は「メモ紙に走り書き」+「携帯で写真」。その後はwordで記録。自分の記憶力だけでは忘れてしまうので「備忘録」として。必要が生じたら抜粋しA4で印刷。病院での検査の時や、要介護認定の申請時に「日常の記録」として提出することもできました。

形式は何でもよいので、本人の状態を時系列に記録しておくと、僅かな変化にも気付き易くなります。何かあった時に、医師や介護士に説明する際にも役立っています。

記録のイメージ

記録のイメージ 写真AC

書くことが無かった日は、穏やかな一日だったのだな…と、しみじみ。

義母の今後を思う

義母が嫁の私にSOSの電話をしたのには物凄く勇気が要ったと思います。この時点では、自身の変化に冷静な部分がまだ残っていたのでしょう。その勇気を大事に思うから、一緒に暮らせるのかも。

現在の義母に病識があるかは不明ですが「自分に出来ることが減った」ことは認識しており、不安なようです。また「出来ない状態を気付かれたくない」と誤魔化す様子は不憫でもあります。

病気について医師から何度も説明を受けたのに、義母は自分好みの妄想で解釈してしまう。良く言えば超ポジティブで怖いもの知らず。実際は、認識の歪みで「危険を避ける」や「選択後の予測」などの判断力が破綻。それに真剣な場面でふざけてしまう。二度童子の気配もあります。

ともあれ薬のお陰で、義母の興奮状態は沈静。多少の妄想や混乱はあるものの、今のところは穏やか。デイにも機嫌良く出かけています。先の見通しは全く分かりませんが、今の落ち着いた状態をできるだけ維持できればと思います。

【追記】その後、疲弊と困惑の約2年。医師も私達も手を尽くしてきましたが、思いもよらない展開に。前頭葉の萎縮に加えて、他の要因もあるのだろうか。

義母は元の家に戻った・ケアマネさんの言葉に救われるも義父が心配
義母は自分の意思で元の家に戻りました。私達夫婦も、主治医も、もちろん止めましたが、義母の意思は強固でした。ケアマネさんの言葉に救われましたが義父が心配です。

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